映画感想【この世界の片隅に】  この限りない むなしさの 救いは ないだろうか

konosekai

 

 町山智浩、ライムスター宇多丸、岡田斗司夫などなど、映画批評に定評のある著名人が揃って絶賛、というか圧巻を以って素晴らしさを訴える映画『この世界の片隅に』を観てきたぞ!

原作はこうの史代の漫画全3巻、名作との呼び声高いが私は未読。

「良い映画を映画館で観られるのは、映画館に行った人だけ」

というもっともらしいが当たり前の思いを胸に、なるだけ予備知識を入れずに映画館へ。

この映画の素晴らしい部分を列挙していくと、ストーリーをつぶさに説明しながらでなければならなくなるので、簡単な解説をどうぞ。

 

映画.COMより

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先に言っておくが、この作品は本当の名作だ。

比類ない。

これまでの全ての映画作品が、この一作によって過去の作品になってしまった感じがするのは私だけだろうか。

本作を100点とすることで、これまでの名作達の点数が相対的に下がってしまった。

 

 

 

この作品のテーマは冒頭にズバッと著されている。

フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」をコトリンゴがカバーしている一節が流れるのだが、これが作品のテーマであるる。

わかります。わかりますよ。

作品を既に観た方はこの曲を聴いただけで、もう主人公すずさんのことで胸がいっぱいになっているのがわかりますよ。

冒頭に採用された部分の歌詞はこちら。

悲しくて 悲しくて
とてもやりきれない
この限りない むなしさの
救いは ないだろうか

 

この曲の全歌詞はコチラ

 

胸にしみる 空のかがやき
今日も遠くながめ 涙をながす
悲しくて 悲しくて
とてもやりきれない
このやるせない モヤモヤを
だれかに 告げようか

白い雲は 流れ流れて
今日も夢はもつれ わびしくゆれる
悲しくて 悲しくて
とてもやりきれない
この限りない むなしさの
救いは ないだろうか

深い森の みどりにだかれ
今日も風の唄に しみじみ嘆く
悲しくて 悲しくて
とてもやりきれない
このもえたぎる 苦しさは
明日も 続くのか

 

実際どの部分をとってもある意味ハマる歌詞なのだが、あえて2番を選んだのには理由がある。

1番は「言葉にならない思いの伝達」

2番は「救いがないかの問いかけ」

3番は「苦しさが続くことへの絶望」

をそれぞれ意味している。

要するに「伝達」「問いかけ」「絶望」で構成されているのだ。

この3テーマは、偶然か否か、戦争物語のテーマにどれもマッチする。

戦争の悲惨さを後世に伝える、戦争の賛否や意味を問いかける、戦争の絶望を著す。

この中から、この作品は「問いかけ」を選択した。

『悲しくて 悲しくて とてもやりきれない この限りない むなしさの 救いはないだろうか』

作品全体でこの歌詞の問いかけ自体を表現し、最後にそっとその答えを添えている。そんな作品だ。

 

この『悲しさ』とは本作において何なのか。

それは「日常が奪われていく」という感覚だ。

主人公すずさんの周りの日常を、これでもかというほど丁寧に切り取り、生活の持つ美しさや素晴らしさを見事に表現しているのだが、それらが棄損されていってしまったことが『悲しくてとてもやりきれない』のだ。

誰がやりきれないのか?

それはすずさんと私達だ。

そして『救いはないだろうか』

という問いかけは、私達にも向けられている。

私の感じたこの作品の救いとは、今現在、自分の周りの生活の美しさと素晴らしさに気づくということだ。

そして、その中で自分自身のひとつひとつの働きを堪能することだ。

 

この作品を鑑賞してから、私は日々の仕事から生活の一動作にいたるまで、何となく頑張れるようになった自分に気がついている。

自分の周りの人々の日常に何とも言えない愛おしさを感じている。

 

戦争に、ヒロシマに、そんな世界の片隅に、救いはないだろうかという問いかけに、私はこのように答えを見出した。

 

 

すずさんはどう思うのだろうか?

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